川は冷やっ冷や石は熱っつ熱

耳川の源流部、尾前渓谷の水は、まるで夏まつりの縁日で氷水の中に浸されて、キンキンに冷えたラムネのようです。うすい緑色に透き通った川に足をつけてみると、一気に頭の先まで鳥肌が立ってしまう程の冷たさなのです。  上流を見ると川面にさし出た木々の下だけ、ぼんやり霧が立ち込めています。八月の湿気を含んだ熱い空気を、この水が冷やしているからですね。  カメラを持ったまま腰まで水に入って、ガクガクしながら写真を撮る人。その目の前に「ぷはっ」と水から飛び出してくる小学生。「子どもは冷たさを感じないのかしらん。」と不思議に思ったけれど、それどころではない。早く水から上がらなければ、もうふくらはぎが冷えすぎてちぎれそうなくらいに痛いんです。

そんな冷たい川の水で冷やしたスイカは、よく冷えて、よく熟れて、甘くて、絵に描いたように赤くて、種がいっぱい。

冷えた体を温めるのが椎葉伝統の石焼き料理です。子ども達が川で体を冷やしている間、川原で太い薪を勢いよく燃やすのが大人の仕事。焚き火の下には大きくて平らな石が二、三個。その上で数時間火を焚いた後、アツアツに熱せられた石を葉っぱのついた木の枝で掃き、灰を洗い流すためにバケツで水をぶっかけます。 「ジャバッ!ジュボジュボ、ジュアー。」 すごい音がして巨大な水蒸気の柱が立ち上がりました。  石のアツアツ加減が落ち着くと、茄子で丸い土手を作り、その中に、甘い味噌ダレと焼いて身をほぐしたヤマメ、玉ねぎを投入。石に蓄えた熱がゆっくり野菜に火を通し、味噌ダレを香ばしく煮詰めていきます。

全体をよく混ぜて、周りの方がピチピチと焦げ始めると出来上がり。羽釜で炊いたご飯にたっぷりのせて、立ったまま「あむっ」と頬張れば、ああ、懐かしのヤマメの石焼きめし。

昔から、大人も子どもも集まって川原で遊んで、作って食べる。尾前の夏休みの定番レジャーグルメなのでした。 「ああ、おいしかった。」