佐礼のこと

「佐礼」(ざれ)と読みます。  本当にほとんど山のてっぺんと言っていいくらいの見晴らしの斜面に、数件の椎葉様式の家が立っています。庭先に立つと村民体育館など上椎葉の様子が、その向こう、空との境には飯干峠や市房山までが見渡せます。  いくつかの条件が整うと、この景色の山と山の間の低いところに、静かにドライアイスのもくもくを流し込んだような雲海が現れるそう。残念ながら今回はその幸運には巡り会えていませんので、ぜひ見たいという読者は「椎葉 雲海」で検索を。

そんなパノラマを面前にして、昼食後のくつろぎの時間に家の中でテレビを見ているのは勿体無いのでしょう。昼過ぎの黒木さん宅を訪れた時、四一さんは、縁側にごろりと横になって。うとうとしながら、見慣れた景色に心を吸い込まれているふうでした。  以前、向山日添の「そまかり(そば刈り)」で会ったでしょ。という話をひとしきりしているうちに、ハツヨさんがごご飯を用意してくれました。

「何もないけど、食べて行きない。」と言いながら土間の机に並べてくれた皿の群れ。蕎麦入りの味噌汁、紫蘇の千枚漬け、梅干し、ラッキョウの味噌和え、赤いカブの漬物、山椒味噌、ウドの天ぷら、蕎麦がき・・・ そして、香りも味も抜群の釜炒り茶。 「水が良いからね。」とハツヨさん。山の上の貴重な水は、最高の水でもあるのですね。

横に細長く、幅の狭い庭とその下の菜園には、たくさんの野菜、花、ミツバチの巣箱、鳥の巣箱、水のほとばしる流し台、物干し場、お墓まである。狭い土地ならではの、すぐに手が届く暮らし。

一日に何時間、夫婦でここに腰掛けて、景色を見ながらのんびり話をするのだろう?  佐礼はまったく、天国のような場所です。