ほうれん草が育つほど、椎葉の夏は涼しい。標高約650メートルの不土野地区に、那須貴文さんのほうれん草ハウスがあります。
培するのは五月から十月の半ば頃まで。種まきから収穫のおよそ四十日を一サイクルとし、それを半年間繰り返していきます。
空が明るみ始める朝六時には、収穫が始まります。ハウス一面にぎっしりと生える青々としたほうれん草。このシャキッと元気な状態を保ち続ける裏には、ほうれん草農家の丁寧な手仕事があります。
奥さんの尚美さんが行うのは、出荷の調整作業。下葉や茎の折れた葉を取り除き、根に付いた土を布で拭う。それを大きさごとに選別し、最後に袋詰め。茎が折れやすく、ちょっとした光や温度変化で萎れてしまうその一株一株を手にとっていく作業は、繊細さとスピードの両方が肝心。家族やパートタイムで来てくれる地元のお母さんたちも心強い味方です。
一方、貴文さんは出荷準備の整ったダンボール箱をバンに積み込み、不土野橋へ一っ走り。農協のトラックが生産者を待っていてくれます。以前は上椎葉までの出荷に往復二時間弱かかっていた所、今ではその時間を他の作業に当てられて随分と助かります。
「失敗してもまた種をまき直せばいいから、ほうれん草が俺には合ってる」と、ニカっと笑う貴文さん。ほうれん草の時期が終わると、次は七草。お正月が過ぎるまで、那須家はまだまだ大忙しです。