「でぇら」とは「平ら」の方言、広くひらけた地形のこと。急峻な斜面の多い椎葉では貴重な平地。 小崎・川の口地区は、山に囲まれてはいるけれど、比較的なだらかで、穏やかな田畑が広がる地区。 その中でも特に「でぇら」と呼ばれる場所に建つ古民家が今、一人の移住者と地区の人たちの手で新しく生まれ変わろうとしています。
何やら、炎と煙を操る怪しい儀式でも始めたか?と見える右の写真。去年の十月、川の口地区の川原での一コマです。杉板を三角の筒状に束ねて立て、下から火を燃やす。煙突効果で勢いよく火が燃え上がり、板の内側はあっという間に黒焦げになるのです。後は、バターンと川の水の中に倒し込んで一気に消火。 焼杉板は耐候性が高く、四国や瀬戸内沿岸部などでは、家の外壁に多く用いられてきたそうです。さすがは、愛媛県育ちの移住者村上健太さん、ここ椎葉で古民家をリノベーションするに当たって、故郷の伝統技術を取り入れてみたわけです。 大工さん電気屋さん、主な工事はプロに依頼し、自分でできる壁塗りなどは自ら汗を流し、理想の家にしようとしている建物の名は『でぇらの家』。都会から訪れる人が、村上さんが自給自足2・0と呼ぶ田舎暮らしをしながら、地元の人たちも気軽に訪れるシェアハウス。 今日は地区の人たちに手伝ってもらって、大仕事、たたき土間つくりを行います。題して、『でぇらの家改修まつり!』。
最近の住宅では、目にする機会がすっかり減ってしまった土間。村上さんが目指すシェアハウスは、農作業やアウトドアな活動と台所との境界があいまいな場所。地区の人たちも、長靴のまま「野菜採れたよー」と気軽に持ってきてくれて、そのまま「お茶でもどうぞ」と都会から訪れた住人との会話がはずむような家です。 そのポイントとなるのが、玄関から台所を経て勝手口までL字に通り抜けられる土間。コンクリートで味気なく仕上げるのではなく、近所の山土と石灰を混ぜた昔ながらの『三和土』にこだわりました。土を運んで、消石灰と塩化カルシウムを溶かした水と混ぜて、5センチほどの厚みに敷き詰めて踏んだり叩いたり、とても一人ではできない仕事。地区のお父さん達も、そう経験のない作業なので、「ああでもない、こうでもない」と賑やかに話し合いながら、何とか本日の予定範囲を完工する事ができました。
みんなで踏んでも、大きな槌で叩いても、一日ではなかなか固く締まらないたたき土間。でも大丈夫、これからここ『でぇらの家』を訪れるたくさんの人の足が、しっかり踏み固めてくれますから。