秋から その1

 

夏の名残りは色濃くあるが、コスモスも涼しい秋風が吹くのを待ちきれないとばかりに 強い陽射しに挑戦するように背を伸ばしていた2024年、椎葉の秋から冬の始まりにかけて。

 

 

むかごは、言わずと知れた山芋の赤ちゃん(と言っていいのか分かりませんが)。  道端の木の梢や、畑の周りのお茶の木や、柿の木や、フェンスや時には電信柱にまで絡みついた蔓の、黄色く色づいた葉っぱの影にコロコロと、いかにも赤ちゃんらしくしがみついている。

激しく揺すると、あっという間にポロリとこぼれて、落ち葉の間に身を隠してしまうから、そおっと指でつまむか、下にコウモリ傘を広げておいて蔓ごとユサリと揺すってやるといい。  塩を効かせたむかごご飯は絶品だから、来年は是非、黄色く色づいた細長いハート型の葉っぱを探してみると良いかもしれない。広い道路の傍に自生しているようなむかごなら、少しくらい頂戴しても叱られることは多分ないでしょう。(笑)

 

 

 

松尾のチョコちゃんといえば、椎葉ファンの間では有名な映画俳優犬。椎葉を舞台にした映画『しゃぼん玉』で名脇役を務めました。

最近はちょっとふくよかにおなりになって、お客さんが来た嬉しさから、ひとしきりはしゃいだ後では少々息切れ気味ですが、その癒しキャラはなお輝きを増しています。 この日の突然の訪問にも、上機嫌ではしゃいでくれました。更に、お母さんがご馳走してくれた作りたての栗おはぎの美味しかったこと。実りに感謝。お母さんに感謝。チョコちゃんにも感謝。松尾の秋は今日も穏やか。

 

 

 

チョコちゃん宅から下を望むと美しい棚田。ここ、下松尾の棚田は「椎葉のマチュピチュ」とも「仙人の棚田」とも呼ばれ、向かいの山の展望台から望んだ光景の写真は皆さんもご覧になったことがあるに違いない。

しかし、「仙人の棚田」の「仙人」が空想の「仙人」ではなく、実在の人物であることはあまり知られていないのでは?

その人こそ松岡今朝男さん。14年前に「椎葉山仙人」のハンドルネームで始めた村民ブログの投稿者なのです。長年にわたって、松尾の自然や暮らし、農作業や伝統行事を写真と文章で綴ってきました。多くの読者を楽しませ、いつかこの棚田も「仙人の棚田」と呼ばれるようになったのです。

 

 

米寿を迎えまた新たな挑戦、書道を習い始めました。敬老の日の決意をしたためた書の力強さは仙人の仙人たる所以、やはりただの人ではないかもしれない。  そして柱の影から、はにかみながらそれを見守るお母さんの優しい笑顔も、仙人の妻らしい慈愛を感じさせてくれるではないですか。松尾の棚田のご夫婦に十年分の元気をいただいたような、ああ、ありがたい、ありがたい。

 

 

 

 

つづく