二月八日、椎葉に雪が降った。 しんしんと、しっとりと、水墨画のように山を薄化粧した雪は、間もなく陽に溶けたけれど、 峠道や谷間の日陰に残ったものは氷となり、三月に入ってもしばらくは溶けずにうずくまっていた。
三月半ば、大河内の国道沿いに、毎年見事な景色を見せてくれる氷柱の群れも、すっかり春の陽気にとろけてしまっていた。 その身を溶かして、ぽたり、ぽたりと落ちた雫は、側溝を伝って源流に近い一ツ瀬川へと合流していく。
ようやく水温んだ川の浅瀬では、小さなエノハが餌を探して、落ち葉の下に頭を突っ込みながら、忙しなく泳ぎ回る。
さあ、椎葉はまた、命あふれる季節を迎える。