椎葉の人口、2023年3月現在、2、366人。 この村も全国の村と同様に人口減少と高齢化が進んでいます。この冊子『ONLY ONE Shiiba』も、おのずと村の「おじい」や「おばあ」が登場することが多くなります。
彼らこそ椎葉独特の彩り豊かな暮らしを伝えてくれている主役でもあるし、それは椎葉の最大の魅力なのだから、「おじい」や「おばあ」へのリスペクトは全く変わることはないのですが・・・。
時には全く違ったアプローチ、という事で、今回は若い人だけが登場する特集を作りました。椎葉の若者達が日本全国の若者達と何か変わったところがある訳ではなく、そこに何か特別なドラマがある訳でもありません。
ただ、椎葉の普通の若い人の横顔を皆さんに紹介し、椎葉がオンリーワンの村であると同時に、他の場所と同じく、若い人の暮らす場所だという事を少しだけ主張しようという目的です。 日頃から『ONLY ONE Shiiba』の取材を担当している私たち二人が撮った若者達のポートレイトと、彼らと話した感想を少しだけ書き添えた写真集。 特に若い読者の皆さんに、椎葉の若い世代の息づかいを感じてもらえたら幸いです。
Miyazaki ringyo daigakko 林業大学校 / Daiki Shiiba 椎葉大樹
林業大学校という学校があるのをご存じでしょうか。国内屈指の林業県である宮崎県。それを支える、技術・知識を教え、林業後継者を育てる機関が、美郷町にある『みやざき林業大学校』です。
彼の名前は椎葉大樹。林業大学校の研修生で、今、森林組合の作業班で実習を受けているところ。この春卒業したら椎葉に戻り、林業に従事する予定です。父が林業者で、小さい頃から山に入り、木に触れ、その仕事を間近で見てきました。林業大学校に入ったのも、自然な流れだったといいます。 実習での師匠は子どもの頃から彼を知っていて、現場では(愛のある)厳しい指導の声が飛んでいます。
「常に危険が隣り合わせであることを自覚し、予測を立てて行動する大切さを体感しているところです」と大樹さん。「仕事が楽しいと思える、そんな一人前の山師になりたいです」 その名の通り、日々大きな樹と向き合う人生の新たなスタートに立っています。
____________________
Shinrin kumiai Shiiba 森林組合椎葉支所 / Sakura Omae 尾前さくら
私(小野泉)が椎葉の取材に参加するようになって三年。初めて、同い年の女の子に出会ったのが、森林組合椎葉支所に勤める尾前さくらさん。人懐っこい笑顔で事務所に迎え入れてくれました。
高校卒業後は自衛隊に入隊したというさくらさん。四年目に、このまま昇進するかそれとも・・・と迷った時、一度椎葉に帰ってみようと考えたそう。そのほとんどが中学を卒業して一旦は村を出る椎葉の若者たちにとって、そんな機会は必ず訪れると言っても良いでしょう。椎葉に帰るか否か?人それぞれ、選択はさまざまだけど、ここが、いつ帰っても安心できる場所であることは皆に共通していることのようです。
おむかい尾向地区出身のさくらさん。地区の青年会にも所属しています。毎月飲み会があることなんかも教えてくれました。
インタビュー中は、お互いの恋愛トークで盛り上がったり・・・なんだか久しぶりに会った友達と話しているよな気分になったのは、桜の蕾が「ぽっ」開いたような、さくらさんの雰囲気のせいかもしれませんね。
____________________
Shinrin kumiai Shiiba 森林組合椎葉支所 / Kenjiro Nasu 那須謙二郎
「椎葉の山を鹿んごつ(鹿のように)走り回りよる子よ」と紹介されたのが、那須謙二郎さん。長崎の大学に進学、卒業後も長崎で勤めていましたが、新しい一歩を踏み出そうと帰郷。現在、森林組合椎葉支所の職員として、日々現場を駆け回っています。爽やかな笑顔で現場の人たちに挨拶をして回る姿は好青年そのもの。
椎葉にこれからもずっと居たいですか?と、単刀直入に聞いてみました。「分からない。もちろん、椎葉のことは大好きです。だけど、今は通過点だと思っています。これから自分がどんな道に進むのか、それに応じて身を置く場所も決まってくるのかな?」そうですね。正直先のことは分からない。気負わず、遠くの山を見て、目の前の仕事に取り組む。鹿のように軽やかな足取りで、どんな道も彼なら進んでゆくことでしょう。
____________________
Fudonotei 富どの亭 / Eiichi Shiiba 椎葉栄一
道路のアスファルトからジリジリと焼けるような夏のある日、不土野の小川の、なんとも楽しそうな場所を訪ねました。こうぞう民宿『富どの亭』のご主人、椎葉鉱蔵さんが企画した『秘境の秘密基地、橋の下のファミレス』。涼しい沢で水遊びするもよし、昼寝するもよし、置かれたトランシーバーで注文すると、富どの亭からお弁当やラーメンなどが届きます。
いつも面白い企画を考える鉱蔵さんの隣では、常に息子の栄一さんがサポートをしています。この日も『橋の下のファミレス』は栄一さんが担当。林業の仕事が休みの日も栄一さんは大忙し。富どの亭としての出店、イベントの運営、観光ガイドも行う行動力の持ち主で、椎葉村の前青年会長も務めるほど周りからの信頼も厚いのです。「椎葉におると、家のこととか地元のことは自然と一生懸命になりますね」と栄一さん。少し恥ずかしがり屋だけど、優しい雰囲気と語り口調に、つい長居してしまいました。
____________________
つづく