もぐら打ち

「たーほーほー、たーほーほー じんぐり まんぐり たーほーほー」
 子どもたちが声を合わせて歌いながら、藁を束ねた棒で、家の玄関先や田畑の畔(あぜ)の地面を叩きます。
 下松尾の集落で行われた『もぐら打ち』。旧暦の小正月に行われる伝統行事です。
 畑を荒らすモグラや鳥を追い払うために地面を叩いたのが始まりなのでしょう。それが、集落の家々を回って、病害虫や災いを追い払うという願いが込められて、現在まで続いているのです。

 小さい子どもたちは、そんな意味を知ってか知らずか、年上の子の見様見真似で歌い、地面を叩きます。
 『ホテ』と呼ばれる藁の束は、おじいちゃん達が作ってくれたもの。思いっきり叩きすぎて解けてしまうと、大人達がすかさず修理してくれます。

 例の歌を3回ほど繰り返すと、モグラも鳥もすっかり逃げてしまうのでしょう。追い払ってもらった家の主人から、子どもたちにお礼の品が配られます。大きなリュックを背負っていたのはそういう理由ですね。お餅、お菓子、さらにはキャベツ、家を回る毎に背中の荷物は重くなって、小さい子の足元はふらふらです。

 こちらは、柴犬のチョコちゃん。椎葉を舞台にした映画『しゃぼん玉』で市原悦子さん演じるスマお婆の飼い犬、ゴン役を演じた有名犬です。東京での舞台挨拶にも主演の林遣都さんと一緒に登場しました。そんなチョコちゃんも、子どもたちに混じって「お菓子ちょうだい!」。 

 子どもたちはこの日、2時間ほどかけて5軒の家を回って、リュックを満タンにし、モグラと鳥を片っ端から追い払いました。

たーほーほー たーほーほー
じんぐり まんぐり たーほーほー
あっちの山からくる鳥も
こっちの山から来る鳥も
おっとり めっとり
つばくらべ

 この歌の意味だけは、大人達に聞いても結 局よく分からずじまい。人によっては「じんがら まんがら」と歌ったり「上の山から〜、下の山から〜」と言ったり、微妙に変化しながら受け継がれてきているようでした。子どもたちは、そんな事にはお構いなし。
 「たーほーほー たーほーほー」と、暗く なるまで、地面を叩いて回りました。
 モグラにとっては災難の小正月、もうすぐ春です。