椎葉村と美郷町の境にそびえる三方岳、標高は1,479メートル。
ここは広大な九州大学宮崎演習林の中。ブナを中心とした天然林が多く残されている特別な場所。
少しずつ紅葉が深まっていく10月24日、九州大学の先生方がガイドを務める登山に同行した。見晴らしの良い尾根から見下ろすパノラマ。杉や檜が中心の人工 林が緑に覆われているのに対し、手前の方、足元のブナの森が黄色く色づいているのがよく分かる。
そうか、日頃私たちが目にしている森とは全く違った森が、ずっと昔から、ここにあったのだ、そう気付かされる。
ブナの実、厳しい冬を前に栄養を蓄えたい動物たちに、森からの贈り物。
秋には実と葉を落とし、適度に日が差し込むブナの森は、ふかふ かの土や根で、雨水を地中に蓄える役目を果たしている。
ある木は倒れ朽ち果て、空いた空間には、代わりに新しい若木が育つ。人間が手をかけなくても、森はあるべき姿を保っていく。植物と微生物と、虫と、鳥と獣と太陽と雨が微妙なバランスを保ちつ つ。
ただし近年、鹿による食害によって草や笹、木々の新芽が育たないなど、森のバランスが崩れているのも事実。
地球規模の人間の活動が、本来無縁であったはずのこの森に、少なからず影響を与えている事からも目をそらす訳にはいかない。
九州大学の宮崎演習林は総面積 約3,000ヘクタール(東京ドーム約641 個分)の広大な森林。研究者や森を管理する職員が駐在する事務所には資料館が併設され、多種多様な動植物の標本を目にすることができる。
登山の前日は、九州大学の講師たちによる森に関する講義が行わ れ、当日、登山の途中もまた草木に触れながら詳しい説明がなされ た。それは、学問への真摯な姿勢とともに、自然に対する敬いの気持ちが参加者全員に伝わる、慈しみ深いガイドだった。
※当演習林は全域が自然林保護区となっており、教育・研究目的以外での林内への立ち入りはできません。
演習林内の登山をご希望の方は、宮崎演習林認定のインストラクターが所属する大河内森林ガイドの会( 電話:0983-38-1440) へご相談下さい。