シシを捌く

椎葉の冬は猟の季節。夏からの取材で知り合いになった猟師さんたちに同行してその様子を取材しようと計画していたところでしたが、その前にこの日、通りがかりにイノシシを捌く場面にでくわしてしまった。猟への同行は、いずれまた紹介するとして、今回は100キロ近くあろうかというイノシシを捌く様子を取材させてもらいました。

ゴワゴワの太く長い毛に覆われていたイノシシ、まずは大きなバーナーでその毛を焼く。

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焦げた毛と表皮を落とし、皮膚に埋もれている毛もきれいに剃られた体は驚くほど白く、ツルツルになりました。

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椎葉の猟は犬たちが主役と言っていいくらい。自分たちが追い詰めて身動きが取れないようにし、猟師が仕留めた獲物を軽トラの荷台から満足げに見つめる犬たち。猟の時は命の危険も顧みずに何倍もの大きさの猪に立ち向かうのに、猟師には健気に従順で、驚くほどおとなしいのです。

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猟師たちのリーダーであるベテラン猟師のシゲユキさん、取り出された内臓の中から膵臓の一部をナイフで切り取って、おもむろに森と川に投げました。山からいただいた大切な命、まずは、山の神と水の神に捧げる事を忘れないのです。その後胃袋を切り裂いて中を見せてくれました。おからのように真っ白いのはブナの実だけを食べているから、肉質が最高のシシの証です。

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若い二人、椎葉誠也さん、甲斐勝太さんは手際よく捌いていく。これがシゲユキさんの今年最初の獲物。その年に獲れた最初の1頭は地区の猟師全員に分けて食べてもらう習わしになっているそう。

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ほんの一時間のあいだに、黒い塊、山のケモノだったイノシシが白く美しい肉に変わる。人が食べない部位は犬たちのご馳走になる。お裾分けにいただいた肉片、ビニール袋に入れられたそれは、ただ美味しそうな高級肉にしかみえませんでした。

人が他の生き物の命を、自分の命に少しずつ置き換えながら生きている事。レストランでハンバーグを食べたり、スーパーで肉を買ったりしているだけでは到底考え及ばない大切な事をしっかり見る事ができました。いつかふと思い浮かんだ言葉が、また頭をよぎる。「椎葉には本物がある。」本物の強さ、美しさ・・・

命を人間や犬たちに譲った猪の頭が、穏やかに見れたのは・・・ここが山の神、水の神に守られた椎葉だから、なのかもしれません。

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